研究概要 |
これまでの研究では、癌細胞におけるラミニンα5鎖及びラミニンα3鎖の発現低下が基底膜の崩壊をきたし、癌細胞の浸潤につながる可能性を報告してきた。平成10年度においては、ラミニンα5鎖及びラミニンα3鎖に対するモノクローナル抗体及びDurkinらによって1997年に部分的にクローニングされたcDNA配列にもとずいたラミニンα5鎖及びラミニンα3鎖のPCRprimerを用いて、肺癌組織における発現を免疫組織染色、RT-PCR法によって検索した。免疫組織学的には肺腺癌の周辺部分の置換性進展は40症例中30症例に認められ、その内4病変においてラミニンα3鎖の部分的な消失が認められたが、α5鎖はよく保たれていた。虚脱部は40症例中9例に存在し,その内6病変においてラミニンα3鎖の部分消失が認められ、α5鎖は1病変においてのみ部分消失が認められた。線維芽細胞の増生巣では21病変中15病変においてラミニンα3鎖の消失が認められ、α5鎖も13病変において消失が認められた。虚脱、線維芽細胞の増生という肺腺癌の進行過程において、ラミニンが消失している頻度がより高くなっており、α3鎖の消失がα5鎖に先行する形で、ラミニンが消失していた。RT-PCR法によって癌部におけるラミニンα3鎖遺伝子の発現を検索したところ、免疫組織学的にラミニンα3鎖の消失が認められた5例中全例において発現の減少が認められ、α5鎖も腺癌10例中4例に発現の減少が認められた。癌細胞におけるラミニン遺伝子の発現低下により基底膜が崩壊し,癌細胞の間質浸潤につながる可能性が示唆された。
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