研究概要 |
癌細胞周囲の基底膜の断裂、消失は癌細胞の間質浸潤における重要な過程である可能性が高い。我々は基底膜物質の中で上皮由来とされるラミニンa鎖の癌細胞における発現低下が基底膜の消失に繋がること、腺癌では浸潤部と考えられる線維芽細胞の増生巣においてa3鎖がa5鎖に先行する形で,高頻度で断片化・消失していることを明らかにしてきた。平成11年度では肺癌細胞でのラミニンa3、a5鎖の発現をノザン解析、RT-PCR法、、ウェスタン解析によって検索した。培養細胞のノザン解析では、正常末梢気道上皮細胞と比較して肺癌培養細胞(腺癌6株、扁平上皮癌2株、小細胞癌3株)ではa3鎖mRNAは全株で消失ないし減少、a5鎖でも3株で減少・消失していた。ラミニンa3鎖はa5鎖よりも高頻度で発現消失を来していたことから、ラミニンa3鎖の発現をさらに解析していった。肺癌組織の定量的RT-PCR法の結果、腺癌では正常肺に比べてa3鎖mRNA量が有意に減少していた。ラミニンa3鎖のII/I domainの合成ペプチドを抗原としてポリクローナル抗体を作成しウェスタン解析を行った。抗体はラミニンa3鎖と考えられる正常気道上皮細胞中の145kd蛋白を特異的に認識し、145kd蛋白は腺癌細胞A549細胞では発現が消失していた。基底膜の一構成要素であるラミニンa3鎖の発現減少が肺腺癌細胞では高頻度で認められ、これが基底膜の断裂の原因となり、浸潤、転移の繋がる可能性が示唆された。
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