研究概要 |
冠状動脈プラーク破綻メカニズムを明らかにするために、今年度は主に非虚血性剖検例の冠状動脈硬化巣の組織学的検討を行った。症例は113例(3-82歳、平均47.4歳)で、形態(concenbic,eccentric)及び性状(fibrous,lipid-rich)の点から4パターンに区分した。その結果、冠状動脈最狭窄部位の狭窄度が50%以上を示した症例は50例あり、eccentric lipid-rich lesionが最も多かった(26例、52%)。一方狭窄度が50%未満の63症例では、fibrous lesionが56例(89%)を占めていた。これらfibrous lesionでは、マクロファージはほとんどなく主に平滑筋細胞からなっていた。また若年者では狭窄度の高いものでもfibrous lesionの頻度が高く、何らかの促進要因が働けば脂質沈着がおこる前に病変が形成されることが推定された。以上より、日本人における冠状動脈硬化の形成は、若年時から形成される線維性内膜肥厚が加齢に伴って、局所的な泡沫細胞出現・脂肪沈着等によりeccentricな傾向が強調されプラークが形成されていく、という過程でおこることが示唆された。これはマクロファージの関与を主と考える仮説とは異なる結果であり、その原因解釈について現在さらに検討を進めている。リスクファクターについては、現時点での臨床データからコレステロール値が有為な相関を示すことが確認された。 心筋梗塞剖検症例の検討結果では、症例が13例と少ないが、病変はlipid-rich lesionが9例と最も多く、血栓を認めた11例のうちプラーク破綻を確認したのは3例でerosion部に血栓を認めたものが7例であった。心筋梗塞責任病変では、プラーク破綻がすべてではなくerosion例も少なくないことが示されたが、現在さらに症例を蓄積して検討を進めている。
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