α-MSHは元来melanocyteでの色素合成に不可欠な神経ペプチドとされ、これまで主にmelanocyteに関して研究されてきた。しかし最近、α-MSHがリンパ球などの免疫関連細胞に作用して免疫反応を修飾することが明らかにされてきた。マスト細胞は皮膚や肺などの臓器に存在して即時型過敏症を引き起こすinitiatorとされている。そこでα-MSHがマスト細胞にも作用してその機能を修飾している可能性について検討した。 まずマスト細胞でのα-MSHに対するレセプターの発現を調べた。RT-PCR法によりマスト細胞がα-MSHに対するレセプター(MC1)をコードするmRNAを発現していることが、またFACS並びにSDS-PAGEを用いた方法でレセプター蛋白を発現していることが明らかになった。MC1はG蛋白に連結したレセプターでリガンドの結合によりadenylate cyclaseが活性化され細胞内のcAMP濃度が上昇することが知られている。マスト細胞をα-MSHで処理すると細胞内のcAMP濃度が上昇することからマスト細胞に発現しているMCIは機能していることがわかった。マスト細胞は抗原刺激によりヒスタミンなどを含む細胞内顆粒を放出して炎症反応を惹起する。そこでマスト細胞のヒスタミン放出能に対するα-MSHの影響を調べたところ、ヒスタミン放出は最大で60%抑制されることがわかった。抗原刺激はまたマスト細胞での様々なcytokineの発現を誘導するが、α-MSHは誘導されるcytokinesのうちTNF-αとIL-1βの転写を特異的に抑制することがわかった。 以上の結果からα-MSHはマスト細胞にも作用してその起炎性の機能を抑制することで炎症反応を修飾していることが示唆された。
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