赤痢菌の宿主細胞内運動の原動力となっているアクチン重合は、菌の表層に発現するVirG蛋白と宿主細胞蛋白の相互作用によるものと考えられる。本年度の研究では、新たなVirG標的分子としてNeural Wiskott Aldrich syndrome protein(N-WASP)を見い出した。N-WASPはシグナル伝達分子Ash/Grb2の結合蛋白として発見され、ヒトの遺伝疾患の1つWiskott AldrichSyndromeめ原因遺伝子産物であるWASPと高いホモロジーを有する。実際に、感染細胞内でアクチンの重合を引き起こしている赤痢菌の一極にはN-WASPの強い集積が認められた。赤痢菌のVirG、N-WASPおよびアクチンに対する抗体を用いて三重蛍光染色を行ったところ、三者の位置は全く一致した。このようなN-WASPの強い集積は、赤痢菌と同様のアクチン重合を引き起こすグラム陰性菌リステリアでは全く認められなかった。また各種GST融合蛋白を用いて結合実験を行った結果、VirGとN-WASPは領域特異的におのおの結合することが示された。さらに、N-WASPの変異蛋白発現系やアフリカツメガエル卵母細胞抽出液を用いた再構成実験系により、N-WASPはVirGによるアクチン重合機構に必要な因子であることが証明された。 以上の知見から、宿主細胞内においてVirGに結合したN-WASPが直接アクチンの重合を促進すると思われる。このメカニズムは、これまでに報告されていない新規なアクチン重合機構として重要であると考えられる。
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