赤痢菌の宿主細胞内拡散の原動力となっているアクチン重合は、菌の表層に発現するVirG蛋白と宿主細胞蛋白の相互作用によるものと考えられる。昨年度の研究で、我々はVirGにNeural Wiskott Aldrich syndrome protein(N-WASP)が結合すること、さらにN-WASPがVirGによるアクチン重合機構に必要不可欠であることを明らかにした。実際に細胞内において、N-WASPはArp(actin-related protein)2/3複合体と会合することによってArp2/3複合体がもつアクチン重合核形成活性を上昇すると考えられている。またN-WASPがArp2/3複合体と結合するためには、低分子量GTPaseの1つCdc42によってN-WASPが活性化されることが必要であることがあると報告されている。今回、我々は赤痢菌によるアクチン重合における低分子量GTPaseの関与を調べた結果、Rho family GTPaseの中でもCdc42が赤痢菌によるアクチン重合機構に必要であることを見い出した。Cdc42に結合しないN-WASPの変異蛋白を用いた実験からCdc42のターゲットはN-WASPであり、Cdc42がN-WASPに結合しそのアクチン重合核形成能を活性化することによって赤痢菌によるアクチン重合を制御していると考えられた。現在、N-WASPのC末端側にG-actinとActin related protein(Arp)2/3複合体が結合することによってアクチン重合核が形成されると考えられている。実際に赤痢菌によるアクチン重合部位にもArp2/3の凝集が認められたことから、赤痢菌は細胞の糸状仮足形成に関与する蛋白群を巧みに自らの感染に利用していると考えられる。
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