研究概要 |
大腸菌耐熱性下痢原因毒素I(STI)は、菌体外に積極的に分泌されるペプタイドである。本毒素はプレ領域,プロ領域及び成熟領域の3領域から成る前駆体として生合成される。既に、プロ領域の存在がSTIの効率の良い内膜通過を引き起こすこと,活性構造構築に必要な分子内のジスルフィド結合の形成は、DsbAと呼ばれるペリプラスム酵素によって促進されること,プロ領域はペリプラスム内で切断を受け、生成した成熟STI分子はTolCと呼ばれる外膜タンパクの機能を介して菌体外へ放出されること,を明らかにしてきた。しかし、ペリプラスムに局在する多くのタンパクの中からtolCがSTIをいかにして認識するのかは不明である。そこで、本年度はtolCおよびSTIの構成アミノ酸の変異がSTIの菌体外分泌に与える影響について調べ、以下の知見を得た。 1. コリシンVもTolCタンパクを介して外膜を通過し、その分泌の際にtolCの193位のLeuは重要な働きをすることが知られている。そこで、この193位が変異したtolCを有する大腸菌を作製し、変異株からのSTIの分泌を調べた。その結果、STIの放出は1/4程度まで低下した。逆に菌体内には成熟STIが貯留していた。この結果より、tolCの193位の構成アミノ酸はSTIの外膜通過過程に関与すると考えられた。 2. 成熟STIのC末端アミノ酸(Tyr)を欠失すると、菌体外へのSTIの放出が低下し、生成したSTIがペリプラスム中に貯留した。また、成熟STIのN末端側3位に存在する芳香族アミノ酸(Phe)を欠失させても菌体外へのSTIの放出が低下し、ペリプラスム中にSTIの貯留が認められた。一方、成熟STIの7位のGluや11位のAsnの変異は、STIの菌体外への放出には影響しなかった。これらの結果より、STIのN末端側およびC末端側に局在する構成アミノ酸がtolCの認識に重要であるものと考えられた。
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