大腸菌耐熱性下痢原因毒素I(STI)は、菌体外に積極的に分泌されるペプタイドである。これまでの研究により、STIは前駆体として生合成され内膜を通過した後、ペリプラスム酵素であるdsbAの作用を受けて活性体となること、外膜タンパクtolCが活性体となったSTIの外膜通過に関与することを明らかにした。しかし、tolCのいかなる部位や機能がSTIの外膜通過に必要であるのかは不明である。そこで、本年度はtolCの構成アミノ酸を変異し、その変異体でのSTIの外膜通過を検討するとともに、tolC変異に伴う二次的変化とSTIの外膜通過との関係について検討した。その結果、以下の知見を得た。 1.種々のtolCの変異株のSTIの分泌をパルスラベル実験および菌体内外のSTI活性の測定で解析した結果、ペリプラスム側に露出しているtolCのC末端側領域(60アミノ酸で構成)の変異は、tolの外膜への局在性に変化を与えなかったが、STIの外膜通過を著しく低下させることが判った。さらに、この領域の欠失変異株を用いて検討した結果、tolCのC末端側30番目のアミノ酸残基より上流に相当するペリプラスム領域が、STIの外膜通過に重要であることが判った。 2.tolCの変異に伴う他の外膜タンパクの変動やLPS構造の変化はSTIの外膜通過には影響せず、STIはtolCにより構築された孔を通過して菌体外へ放出されるものと考察された。
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