血液細胞の個体発生では、胎仔型の赤血球を産生する一次造血と、成体型赤血球やリンパ球にも分化できる多能性の血液幹細胞により維持される二次造血とが存在する。これまで我々の研究グループは、リンパ球を含む二次造血は中胚葉に由来する血管内皮細胞にその起源があることを明らかにしてきた。本研究は、胚性幹細胞(ES細胞)の試験管内分化系を用いて、血液細胞系譜の発生を能動的に制御する実験系の確立を通して、血液細胞の運命決定のメカニズムを理解することにある。本年度は、まず、血管内皮細胞から血液細胞系譜に至る分化系路を解析した。その結果、血管内皮細胞が血液細胞系譜に分岐するときに最初に現れる細胞表面抗原の変化としてα4インテグリンの発現があり、これが血液細胞への分化に対して許容的な状態を表していることを明らかにした。次に、血液細胞系譜への分化決定と転写調節因子との関係を解析するための最初の試みとして、赤血球の発生に必須の転写因子であるGATAlの発現に着目した。GATAl遺伝子プロモーターに、マーカーとして蛍光タンパクGFP遺伝子を連結し、ES細胞に導入して試験管内で分化させた結果、一次造血と二次造血の二つの血液細胞系譜は中胚葉の段階で分岐することを明らかにした。すなわち、中胚葉の段階でGATA1を発現するサブセットは胎仔型の一次造血細胞に分化決定され、GATA1を発現しない中胚葉は血管内皮細胞を経て多能性の二次造血細胞に分化することを示した。血液細胞系譜への運命決定を制御するためには、その前駆段階である血管内皮細胞に実験的操作を加えることが望ましい。そのために血管内皮細胞で特異的に発現するVEカドヘリン遺伝子のプロモーター領域を単離した。次年度は、このプロモーターを利用して任意の遺伝子を血管内皮細胞に発現させ、血液細胞系譜への分化決定を任意に制御する実験系を確立する予定である。
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