研究概要 |
(1) 各種recombinant gp120(rgp120)のBindig affinityの解析:HIVは、そのウイルス表面にスパイク状に発現している糖蛋白質gp120が、標的細胞のCD4/CXCR4に結合することによって、吸着、感染する。gp120のV3ループはその結合に必要不可欠であり、感染および病原性に大きく関与していることが示唆されている。筆者らはこれを明らかにするために、wild typeおよびV3ループに変異を導入した各種rgp120の大量生産システムを確立し、常時供給できるシステムを構築した。また各種rgp120のBinding affinityを解析するためには、humanCD4およびCXCR4を発現した細胞が必要であることから、エレクトロポーレーション法によりNIH-3T3細胞に上記cDNAを導入しtransfectantを作製した。これらを用いてBinding affinityの差異をフローサイトメトリーによって解析した。その結果、V3ループに変異を導入した各種rgp120のBinding affinityは、予想に反して、wild typeのそれと有為な差異は認められなかった。この事実によって、V3ループの1アミノ酸置換では、rgp120のCD4およびCXCR4への結合には大きく影響しないこと、すなわち少なくともそれによる立体構造の変化では、そのBinding affinityには大きな変化をもたらさないことが明らかとなった(投稿準備中)。 (2) gp160のアポトーシス誘導能の解析:これまでの研究で筆者らは、CD4^+細胞にHIV-gp160を発現させると細胞内にgp160が蓄積して単一細胞死を生じることを明らかにしてきた。この細胞死は細胞内Ca2^+上昇を伴うアポトーシスであり、かつcalmodulin(CaM)拮抗剤で前処置しておくとアポトーシスは阻止されることがわかった。よってこの実験系を用いて、gp160によるアポトーシスにおけるCaMの役割について詳細な検討を行った。その結果、筆者らは,1)gp160とCaMは発現細胞内で、CD4とともに少なくとも3分子複合体を形成していること、2)そのCaMの結合は、gp160のC末端5アミノ酸残基を介して行われていること、さらに3)CaMを結合できない変異gp160を発現する細胞株では、アポトーシスが完全に抑制されることを見い出した(J.Virol.72,6574-6580,1998)。これらの事実は、CaMがgp160によるアポトーシスにおいて重要な役割を果たしていることを示すものであり、アポトーシスに関連しているシグナル伝達分子を中心に、その近傍のカスケードについて現在解析を進行中である。
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