我々は、プレB細胞受容体を介するシグナル伝達経路を解析するための新たなシステムを確立した。すなわち、骨髄プロB細胞上のIgβ分子の特異的抗体による架橋が、プレB細胞受容体を介するシグナルと同等のシグナルを細胞内に伝達できることを明らかにした。このシステムを応用して、Igβ分子架橋により誘導されるチロシンリン酸化されるタンパク質を調べると、幾つか検出されるチロシンリン酸化タンパク質のうち分子量36kDのタンパク質がプレB細胞受容体からの特異的シグナルに関わっている可能性が強く示唆された。チロシンリン酸化される36kDタンパク質としては、Grb2と会合してT細胞受容体シグナルに重要なアダプター分子であるLATが一候補に挙げられる。しかしこの36kDタンパク質は、Grb2との会合が認められなかったことから、LATとは異なる新規分子であると考えられ、この36kDタンパク質の精製を開始した。また36kDタンパク質のチロシンリン酸化は、骨髄プロB細胞と同様にプロB細胞株63-12でも検出され、さらに抗Igβ抗体処理の代わりに過酸化バナジン処理でも検出されることが分かった。そこで大量培養した63-12細胞を過酸化バナジン処理し、その可溶画分を原料とし、SDS電気泳動溶出システム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、および抗リン酸化チロシン抗体(4G10)アフィニティークロマトグラフィーを用いて36kDタンパク質を粗精製した。現在、この粗精製物をもとに、36kDタンパク質をSDS電気泳動ゲルから単離し、マススペクト口グラフィーおよび微量ペプチドシークエンサーを用いて36kDタンパク質の同定および一次構造の決定を試みている。
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