わが国の生活習慣病病の中でも多くを占める高血圧症の病態における一酸化窒素の役割を検討するため、高血圧患者と健常人の一酸化窒素の最終代謝産物(硝酸イオンおよび亜硝酸イオン)の濃度を、近年開発されたMiskoらの方法にて測定した。 まず、高血圧症との関連性がよく指摘されている生活習慣である喫煙と飲酒の一酸化窒素代謝への影響を検討するために、服薬および治療を受けていない健常人において、喫煙状況と飲酒頻度別に各種イオン濃度を比較検討した。喫煙の影響であるが、女性の血清硝酸イオン濃度は非喫煙<過去の喫煙<現在の喫煙の順に高くなり、特に非喫煙者と現在の喫煙者との間に有意差を認めた。男性の硝酸イオン濃度においては有意水準にまで至らなかったが、同様に喫煙による硝酸イオン濃度の上昇傾向を認めた。喫煙は一酸化窒素の発生源としてよく知られており、一酸化窒素の体内発生を考えていく上で考慮すべき重要な因子と捉えられた。一方では、血清亜硝酸イオン濃度においては一定の傾向は認められなかった。次に飲酒の影響であるが、飲酒頻度別に硝酸イオンおよび亜硝酸イオン濃度を比較検討したところ有意な差は認められなかった。 高血圧症との関わりを検討すると、降圧剤を服用している患者の亜硝酸イオン濃度は健常人より有意に低く、一方、高血圧患者の硝酸イオン濃度は健常人のそれより有意に高かった。さらに、高血圧罹患期間との関係を年齢、喫煙、飲酒も考慮して検討すると、より長い罹患期間を有する患者が高い硝酸イオン濃度を示していた。これらの結果は、高血圧症が進展するにしたがって一酸化窒素の産生が増加する傾向があることを示唆している。高血圧症の長期罹患に伴う動脈硬化といった病理学的プロセスに一酸化窒素産生が関わっているという仮説を支持するものであり、今後は一酸化窒素合成酵素(NOS)のpolymorphismと成人病との関連も検討していく予定である。
|