現代日本人小児の鉛摂取(暴露)源を推定することを目的として、本年度は現代日本人小児の乳歯の鉛分析を行った。 神奈川県内の歯科大学の保存試料およびつくば・東京など首都圏に在住する小児(1985-1988生まれ)から採取した切歯合計17試料を分析に用いた。乳歯試料は硝酸分解後、ICP質量分析法により鉛濃度と鉛安定同位体比(207Pb/206Pb、208Pb/206Pb)を測定した。その結果、鉛濃度は中央値で0.8mg/kgと、1970-80年代の欧米での報告値(1.9.11.9mg/kg)に比べ低い値であり、現代日本人小児の鉛暴露レベルが高くないことが確認された。一方鉛同位体比の平均値は、207Pb/206Pb:0.866±0.003、208Pb/206Pb:2.111±0.006となり、比較的小さい範囲に分布した。この値は日本産鉛の同位体組成(207Pb./206Pb:0.84-0.85、208Pb/206Pb:2.08-2.10)とは大きく異なり、現代日本人小児には、全体量としての暴露レベルは低いものの、日本産でない鉛の暴露があることを示している。日本における環境試料中の鉛同位体組成に関する文献値と比べると、乳歯中鉛の同位体組成は現代日本における大気粉塵中鉛のそれにきわめて近く、大気中鉛の寄与が想定された。しかしながら大気粉塵中鉛の同位体組成は一般廃棄物フライアッシュのそれと類似していることも指摘されている。フライアッシュは厨芥などをふくむさまざまな可燃性廃棄物の混合物をもととする。鉛摂取源として大気と並んで重要である飲食物中鉛同位体組成を明らかにすべく、日本各地29世帯より陰膳法による食事のサンプリングを行い、凍結乾燥後均一な試料を作製した。
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