本研究では、シンナー乱用の生体に及ぼす影響を検討するために以下のことを行った: 1.再現性がよく定量的な実験が可能な曝露実験系を開発した 曝露実験装置を作成し、装置の基礎的な特性に関する検討をおこなった。その結果、最大約2200ppmのm-xylene蒸気を含んだ空気を長時間にわたり実験動物(ラット)に対して安定して曝露できる再現性のよい実験系を開発した。この装置は気化器に装てんする有機溶剤を変更することにより種々の実験を遂行することが可能な点で汎用性があり、有用である。 2.新たに開発した実験系を用いて、m-xyleneとその代謝産物の生体内分布を測定し、またGABA_A受容体の変化を画像化して検討した この曝露実験系を用いてラットに有機溶剤(2000ppmのm-xyleneを一日4時間連続五日間)を曝露する実験を行った。曝露濃度は、乱用時の吸入濃度を想定して設定した。曝露後に、各臓器への有機溶剤の分布を検討したところ、脂質含量の多い組織(脳、脂肪組織など)に多く分布していた。脳内では小脳内の濃度が最も高く、大脳のほぼ二倍であり、m-xyleneは不均一に分布することがわかった。また、代謝産物も各臓器で測定した。さらに、GABA_A受容体の分布を[^<35>S]TBPSを用いたオートラジオグラフィー法で画像化したところ、小脳においてリガンド結合量が増加していた。小脳はm-xyleneが最も高濃度であったことからGABA_A受容体の発現はm-xyleneの曝露により変化することが示唆された。この点は報告が見当たらない知見であり、現在運動失調との関連性を調べるとともに、受容体遺伝子の発現の状況など、分子レベルの検討を急いでいる。 3.研究成果の教材への活用 実験の過程において薬物乱用防止教育の教材として活用しうる画像等が得られたので、研究代表者の担当する授業等で積極的に用いた。
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