研究概要 |
ユスリカ科の多くの種類は、雄が特定の地形的マーカーの周辺で蚊柱を形成し、そこへ飛来する雌と空中で交尾するという配偶システムを持っている。この時雌は、雄の発する羽音を手がかりに、同種の形成する蚊柱に確実に誘引され、同所的に分布する近縁種間の行動的生殖隔離を成立させている。本研究では「種特異的」な成虫の発する羽音を利用して、選択的に防除対象種であるユスリカ成虫の大量捕獲を試み、富栄養湖周辺で社会問題化しているユスリカ防除の対策研究に役立てようするものである。初年度は疑似羽音発信テープを用いて、オオユスリカの季節型と誘引される羽音について検討し、次年度はアカムシユスリカやクロユスリカの成虫に注目し、誘引された羽音と成虫の羽の長さ、蚊柱形成時の気温・照度・風力などとの関係について検討した。さらに、これまでに報告されている本邦のユスリカ種について、それぞれ誘引される羽音や測定時の気象条件についてまとめ、音を用いた防除に関する基礎データの整理を試みた。得られた結果は以下の通りである。 1.夏(22.5℃)に発生するオオユスリカ成虫は270-300Hzに誘引されるが、秋(20.0℃)に発生するオオユスリカ成虫は300-330Hzに誘引され、誘引される羽音に違いのあることが明らかとなった。 2.秋(14,0℃)に発生するアカムシユスリカ成虫はオオユスリカ同様大型種であるにもかかわらず150-180Hzに誘引され、蚊柱形成時間も日没前の3:00〜5:00までの明るい時期であった。 3.夏(23.0℃)に発生するクロユスリカ成虫は前二者に比べると非常に小型の種類であるが、240-270Hzに誘引されることが明らかとなった。 本邦におけるこれまでの報告と、本研究の結果をまとめると、ユスリカ成虫が誘引される羽音は、成虫の大きさ(羽長や質重量)に依存するのではなく、蚊柱形成時の気温に強く影響されていることが示唆された。今後はこうしたデータを基に誘因源として光と音の組み合わせによって、効率の良い成虫大量防除法を検討していきたいと考えている。
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