我々は、実際に突然死した乳児に使用されていた寝具を収集し、一般的な乳児用寝具との比較を、人形モデルを用いて再呼吸動態の面から検討してきた。今回の実験では、以前から用いていたシリンジによる模擬呼吸に代わり麻酔下の実験動物の呼吸器系を接続することで生体の呼吸を再現した。実験動物は生後数か月の乳児とほぼ同体重の兎を用いたが、実験中は当然麻酔剤(Pentobarbital Sodium 0.5ml/kg)を使用するため、呼吸状態への影響は避けられない問題であった。麻酔深度は個体差のみならず麻酔導入からの経過時間によっても異なることは当初から予想されたため、この影響を最小限に抑えるため、寝具環境パターン数を最小限に抑え実験の全過程を麻酔効果時間内に行う、寝具環境パターンの順番を兎毎に変えてデータを平均化する、実験過程の前後に乳児用かた綿布団のコントロールをおき呼吸状態の変化をチェックする、などの措置をとった。結果の評価は、呼気中CO_2濃度は兎の気管に実験回路を接続しただけでも死腔の増加により上昇してしまうため、再呼吸動態をより明確に捉えるために吸気中CO_2濃度の変化で評価することとした。現在、乳児用かた綿布団に厚手のバスタオルを敷いた状態や実際に突然死した乳児に使用されていた寝具へのうつ伏せ寝では、乳児用かた綿布団へのうつ伏せ寝に比べて再呼吸が生じやすいという結果が出ており、生体の呼吸でもシリンジによる模擬呼吸による実験結果と類似したパターンをとることが明らかになった。ただ、シリンジによる模擬呼吸では呼吸数を15回/分に統一していたが、麻酔下の兎では20〜30回/分前後と幅広く、これらは麻酔深度、再呼吸による高CO_2血症などに起因するものと考えられ、再呼吸動態にも変化が出ることがわかった。今後は実験回路の死腔量を減少させた回路での実験を試みると共に、呼吸数が比較的安定した症例での実験を再度行いデータを集積する予定である。
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