本研究は転写因子NF-κBとSp1との相互作用から血管内皮細胞におけるP-セレクチン遺伝子の転写調節機構を解明し、白血球のrollingを制御する新たな抗炎症療法をめざそうとするものである。P-セレクチンの発現は蛋白レベルと転写レベルで制御され、慢性炎症に対しては主として転写レベルで制御されていることが知られている。昨年度、血管内皮細胞においてインターロイキン4によってP-セレクチン遺伝子の発現が蛋白・転写レベルで正に調節されていることを明らかにし、さらにその調節機構に転写因子Sp1の関与を見いだした。そこで、本年度、P-セレクチン遺伝子のプロモーター解析を介して、P-セレクチン発現制御における新規治療法開発への可能性について検討した。その結果、1、インターロイキン4によって誘導される転写因子Stat6が、P-セレクチン遺伝子発現に関与していること、2、Stat6のDNA結合部位は従来から知られているNF-κB/Sp1結合部位の近傍に存在すること、3、これらの転写因子に相互作用が認められること、4、慢性炎症局所を想定した酸化還元状態がこれら転写因子の相互作用と遺伝子発現レベルに密接に関連していることなどを明らかにした。すなわち、P-セレクチン遺伝子発現を正に調節しているStat6、NF-κBの作用をSp1は負に調節していることが判明し、Sp1の細胞内蓄積量と活性化の制御が新規治療法開発への標的となる可能性を見いだした。従来から検討されているStat6、NF-κBなどを直接抑制する治療法に加えて、その抑制分子Sp1を新規治療法の標的にすることは作用機構の異なった治療法であり今後のさらなる展開が期待される。
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