昨年度の研究により、炎症性サイトカインが骨芽細胞上のMT-MMP-1の発現を増強し、MMP-2の活性化を促すことを証明した。 今年度は、特にこれらのメタロプロテアーゼの発現メカニズムを解明するとともに、その制御について研究の主眼をおいた。まず、メタロプロテアーゼの転写因子の一つと考えられているNF-kappaBの関与について検討した。骨芽細胞を代表的な炎症性サイトカインであるIL-1betaで刺激すると、NF-kappaBが骨芽細胞の細胞質から核内へ移行することが蛍光免疫染色法によって確認された。さらに核内に移行したNF-kappaBはDNAの特異的なbinding siteに結合してメタロプロテアーゼの発現を誘導することが示唆された。また、炎症性サイトカインによるメタロプロテアーゼの発現誘導は、蛋白(酸素)レベルにおいては通常シクロオキシゲナーゼの活性化に引き続き産生されるプロスタグランデインによりひきおこされると考えられているが、これらのことが骨芽細胞内においてもみられるのか検討した。骨芽細胞をIL-1betaで刺激すると、メタロプロテアーゼ同様、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現が誘導されることをImmunoblot analysisとRT-PCRを用いてそれぞれ蛋白レベルとメッセンジャーRNAレベルにおいて証明した。さらに、このCOX-2の発現もNF-kappaB関与しているという結果を得た。以上のごとく、メタロプロテアーゼ発現はCOX-2を介しておこなわれており、それらの発現には、NF-kappaBの活性化が関与していることが示唆された。また、最近、NF-kappaBの活性化にレドックスシステムの関与が示唆されている。そこで、骨芽細胞においてIL-1betaで誘導されるNF-kappaBの核内移行、COX-2の発現が抗酸化剤で制御されるか検討した。NF-kappaBの核内移行、COX-2の発現ともに抗酸化剤の一つであるN-Acetylcysteine(NAC)で抑制することに成功した。 以上のことから、NACをはじめとする抗酸化剤がNF-kappaBの活性化を制御することによって、慢性関節リウマチ等の炎症性骨疾患の骨破壊病変において産生されるメタロプロテアーゼの誘導を制御する可能性を示唆した。
|