1.我々は、緑膿菌感染症難治化要因のひとつとして液性免疫応答異常を想定し、特に細胞外に放出される内毒素(endotoxin、以下LPS)および外毒素(exotoxin A、以下ExA)のB細胞機能に及ぼす作用について、ヒトにおけるT細胞-B細胞間の接触反応のモデルを用いてin vitroで検討した。 2.平成10年までの研究では、ExAは濃度依存性にB細胞のIg産生を有意に抑制し、ExAのT細胞依存性免疫応答に対する免疫修飾作用が明らかになった。 3.この免疫修飾作用に対するLPSの影響について、両毒素が時間差で存在した場合、異なる細菌由来のsynergismは認められなかった。このことから、両毒素の液性免疫応答に対する作用点は互いに異なっており、ExAはADP ribosylationによる蛋白合成阻害によってLPSはマクロファージなどのサイトカイン放出能を介して、B細胞機能に影響を及ぼすと考えられた。 4.また、リンパ球に作用すると考えられている各種のケモカインについても、LPSと同様にExAの免疫修飾作用に対する効果を調べた。今回の研究では、Interleukin-8(IL-8)、stromal cell derived factor-1α(SDF1α)、SDF1β、thymus and activation regulated chemokine(TARC)を用いた。その結果、いずれのケモカインもExAの存在下・非存在下に関わらず、B細胞のIg産生に明かな影響を及ぼさなかった。炎症局所で産生されたこれらのケモカインは、好中球やT細胞の遊走を誘導して生体防御に貢献すると考えられるが、ExAの影響を受けた液性免疫応答を回復する作用はないと思われた。 5.以上より、最も強力なvirulence factorであるExAは、他の液性因子の影響を受けずに、単独で液性免疫反応を強力に抑制し得ることが明らかになった。ExAのこの働きは、緑膿菌感染症の難治化要因のひとつとして、大変重要な一因子として理解される。
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