研究概要 |
我々は、ポリD,L-乳酸(PDLLA)高分子マイクロカプセルを用いた新たなドラッグデリバリーシステムの開発を進めてきた。その過程で、腸炎モデルマウスに対するステロイド剤含有マイクロカプセル投与実験や、ラジオアイソトープを用いたトレース実験により、このマイクロカプセルはパイエル板内のM細胞から選択的に取り込まれ、薬剤血中濃度を上げずに局所濃度のみを上げて治療効果が得られることを確認した。このシステムを用いて経口免疫寛容を導入するために、マイクロカプセルに包含するアロ抗原として、ドナーラットMHCクラスII分子の塩基配列の一部分を用いた20個のアミノ酸からなる合成ペプチドを用いた。これらの合成ペプチドをマイクロカプセルに包含させる際、従来のW/O/Wダブルエマルジョンからの液中乾燥法によると作成過程において合成ペプチドの破断が生じるため、マイクロカプセルの原料及び作成法に改良を加え、ペプチドを安定してマイクロカプセルに包含させる方法を確立した。この合成アロ抗原ペプチド含有PDLLA高分子マイクロカプセルを異所性小腸移植モデルラットに経口投与し、細径ファイバースコープによる移植片の生着状態の経時的観察と、経時的に犠牲死させたレシピエントラットの腹腔内から摘出した移植片上皮における拒絶反応の組織学的検討によって、免疫寛容と移植片特異的免疫抑制の成立を評価した。その結果、当該マイクロカプセル投与群では対照群に比して内視鏡的にも組織学的にも移植片の障害状態に改善が見られ、移植片生着率の向上も見られた。しかし、対照群の拒絶反応が軽く生着率が良好なため何れも統計学的有意差を認めるまでには至らなかった。一方、マイクロカプセル投与による副作用は認めなかった。
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