1. 膵癌症例に対する内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)下細胞診ならびにp53免疫染色の検討 私たちは、これまでにERP下膵管ブラッシング法を開発し、膵癌症例より得られた膵管上皮細胞のp53免疫染色が、診断に有効であることを明らかにし報告してきた。今回は、その検討を遺伝子のレベルまで深く追求した。方法は上述した手法で採取した細胞よりDNAを抽出し直接塩基配列決定法で検討した。結果は、p53免疫染色が陽性であった症例のうち86%がその遺伝子にも変異を認め、さらに興味深いことに手術不可能な症例の67%にコドン273の塩基がCGT→CATに変異していた。このことより、p53遺伝子ではコドン273の変異が膵癌の浸潤・転移に関与している可能性が示唆された。 2. 膵液細胞のテロメラーゼ活性の検討 細胞の不死化に関与するテロメラーゼは、近年各種癌においてその活性を検出されることが報告され注目されている。私たちも、膵癌術前診断への応用を検討するため、1と同様の方法で採取した細胞のテロメラーゼ活性を測定した。結果は、膵癌症例中95%にテロメラーゼ活性を認めた。また、術前の細胞診で良性と診断されテロメラーゼ活性を認めた症例には手術を施行し全例癌(33%は小膵癌であった)であった。 1・2より、私たちが開発したERP下膵液採取法で得られた細胞を用いた細胞診、p53免疫染色法そしてテロメラーゼ活性測定を行うことで、膵癌の術前診断の向上と小膵癌の発見さらには、膵癌における浸潤・転移の推定に有効な方法であることを明らかにした。今後も、引き続き症例を重ねて検討をおこなって行く。
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