研究概要 |
本年度は、MTH1遺伝子とヒト発癌との関連を明らかにするための基礎研究として、ヒトにおけるMTH1蛋白質の存在様式を中心に解析を進めた。我々の作成した抗ヒトMTH1蛋白質ウサギポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、ヒト培養細胞抽出液中に21.8KDa,20.7KDa,18.0KDaの異なる移動度を示す3つの蛋白質の存在を認めた。7種類のMTH1mRNAの中には以前明らかにした開始コドンのS^1上流に翻訳読み枠の一致する3つのAUGコドンを有するものが含まれる。cDNAから予測される蛋白質が実際に翻訳され得るか、試験管内転写翻訳系およびMTH1抗体による免疫沈降法を用いて解析したところ、細胞中で検出されたMTH1蛋白質と同じ移動度を示す3つのMTH1蛋白質を認めた。また各AUGコドンにPCR法を用いて部位指定突然変異を導入し、これらが実際に翻訳開始部位として機能していることを証明した。 MTH1遺伝子のエクソン2c部分に見い出したGTないしはGCのMTH1遺伝子多型は選択的スプライシングのパターンを変化させMTH1mRNAの種類を4つに限定することを既に示している。今回、さらにこの多型部位にGCを有するmRNAを鋳型とした試験管内転写翻訳系では、25.6KDaの移動度を示す新たなMTH1蛋白質が生じることを示した。これは最もmRNAのS^1末端に近いAUGが開始コドンとして機能し、またGT部分のGCへの変化により終止コドンが消失するためであることも証明した。実際にvivoでも、多型部位において異なる遺伝子型を有するリンパ球細胞株についてウエスタンブロッティングを行い、試験管内転写翻訳系で得られた結果に符合する結果を得た。以上の結果から、この多型がMTH1遺伝子の選択的スプライシングに影響するのみならず、MTH1蛋白質の種類と細胞内の存在量にも影響することを証明した。
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