当初はテロメラーゼの組織内分布をみるために、テロメラーゼ触媒サブユニットであるhEST2のmRNAをin situ RT-PCR法で検討する計画であった。そこで、3種類のプライマー対を設計し、in situPCRを凍結切片上で試みたがいずれもシグナルを検出しえなかった。そこで基礎実験にもどり、組織切片上ではなくて液相でRT-PCRを行いhESTに特異的なバンドが得られるかどうかを調べた。しかし、これについてもいくつかのPCRの条件を試みたが特異的バンドは得られなかった。現在のところin situおよび液相ともにhEST2のmRNAのPCRは、うまくいっていない現状である。 一方、TRAPアッセイによりテロメラーゼ活性を検討したところ、肝癌部では84.6%に、また非癌部では10.2%にテロメラーゼ活性が認められた。癌部のテロメア長が非癌部に比較して相対的にどの程度短縮あるいは延長しているかを表す指標であるterminal restriction fragment ratioはテロメラーゼ活性と相関があった。また、テロメラーゼ活性と組織学的分化度や増殖活性との間には有意の相関はなかったが、低分化型の症例に最も高い活性が認められた。この結果は、分化度の低い肝癌で細胞分裂によるテロメア長の短縮をテロメラーゼが補うことにより、癌細胞の寿命を延長する機構がはたらいていることを示唆するものであった。 今後は、hEST2のPCR法についてさらに条件設定を検討していくとともに、最近発売された抗hEST2抗体を用いて免疫組織科学法によってもhEST2の組織内分布を検討していきたい。
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