実験計画時には、肝細胞癌においてテロメラーゼの組織内分布をみるために、テロメラーゼ触媒サブユニットであるhEST2のmRNAをin situ RT-PCR法で検討する予定であった。そこで、6種類のプライマー対を設計し、in situ RT-PCR法を凍結切片上で試みたがいずれもシグナルを検出しえなかった。そこで組織切片上ではなく液相でRT-PCR法を行ったがこれも特異的なバンドは得られなかった。その後、発売された抗hEST2抗体を用いて、免疫組織学的にこのタンパクの発現を検討しようと試みたが、肝癌50症例、一部は凍結切片、一部はパラフィン切片を用いて、抗原賦活法を種々行ったが、結局特異的なシグナルは検出しえなかった。また、近年、in situ hybridizationでhEST2のmRNAの発現をみた論文が一件みられ、論文にならってプライマーを作成し、肝癌組織で試みたがこれも特異的なシグナルは得られなかった。結局、hEST2の発現をmRNAないしはタンパクのレベルで組織切片上にとらえる試みは、現在の所うまくいっていない現状である。 一方、TRAPアッセイで、肝癌部で84.6%、非癌部で10.2%にテロメラーゼ活性を認めた。癌部のテロメア長が非癌部のそれに比してどれほど短縮あるいは延長しているかを表す指標であるterminal restriction fragment ratioはテロメラーゼ活性と相関があった。さらに、テロメラーゼ活性と組織学的分化度、増殖活性、アポトーシスとの間には有意の相関はなかったが、低分化型の症例に最も高いテロメラーゼ活性がみられた。以上より、低分化の症例では細胞分裂によるテロメア長短縮をテロメラーゼが補うことにより、癌細胞の寿命を延長する機構が働いていることが示唆された。
|