研究概要 |
プロスタグランジン(PG)系の情報伝達物質であるトロンボキサン(TX)A_2は血小板凝集,脈管収縮を起こし,PGI_2は血小板凝集抑制・脈管弛緩に働く.腫瘍周囲微小環境におけるこれらの因子の関与を解析するため,PGI_2合成酵素(PGIS)遺伝子,TXA_2合成酵素(TXAS)遺伝子ををneo耐性発現レトロウイルスベクターに組み込み,ルイス肺癌細胞株(3LL),C26大腸癌細胞株,A549肺癌細胞株に導入しG418で細胞の選択を行い,ノーザンブロット,PG類のEIAで遺伝子導入を確認し,得られたstable transformantを,各々C57BL/6,Balb/c,ヌードマウスに5×10^5個皮下接種し,腫瘍増殖・生存期間を検討した.3LL,C26ではPGIS遺伝子導入は腫瘍増殖を抑制(C26で14目目56%,3LLで18日目22%p<0.01)し,生存期間を延長(C26で20日vs33日,3LLで30日vs46日p<0.05)した.TXAS遺伝子導入によりC26では生存期間の短縮(20日vs13日p<0.01),A549では腫瘍の増殖(35日目0.35vs0.62cm^3p<0.01)が見られた.CD31免疫組織染色による腫瘍組織内の400倍視野内血管数は,C26,3LLともPGIS遺伝子導入で40〜50%に減少(p<0.01),TXAS遺伝子導入で1.4〜2倍に増加(p<0.01)した.PGI_2は血管平滑筋の増殖抑制効果が知られ,PGIS遺伝子導入による腫瘍増殖抑制の機序として血管新生抑制が考えられた.TXA_2は血小板への効果に加え,腫瘍環境で血管新生促進作用を持ち腫瘍増殖に影響することが示唆された.TXA_2は半減期が30秒と短く,これまで類似化合物による検討のみで,実際にTXAS遺伝子のex vivo導入で血管増生を観察したのは本研究が初めてである.
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