慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、近年積極的に肺血栓内膜摘除術が施行され、症状、肺血行動態の著明な改善が得られてきた.手術適応を考える上で、その血栓存在部位の正確な診断は必須である。近年冠動脈疾患で普及してきた血管内視鏡は、直視にて血栓や血管の内膜変化を観察可能としたが、本邦のみならず欧米においてもその肺動脈における使用経験は少なく、検査の侵襲性もあってその意義は明らかとはいえない。今回CTEPH2例(症例1:平均肺動脈圧53mmHg、症例2:平均肺動脈圧24mmHg術後)に、バルーン付き血管内視鏡を使用し、肺動脈へのアプローチ法、適応、安全性について検討した。結果、アプローチ方法としてはカイドワイヤー法よりもガイディングカテーテルを使用する方法が容易であること、また区域枝およびより末梢の血栓の観察に有用であることが示唆された。しかしながらすべての血管をくまなく観察することは時間的、手技的にも困難で、肺動脈径が太い症例では、葉動脈レベルにおいても血流遮断をすることができず観察が困難であることが問題点として挙げられた。より容量の大きいバルーンの使用や、内視鏡でなくガイディングカテーテルにバルーンを装着する方法、先端にバルーンを装着しバルーン越しに見る方法などによって、より太いレベルの観察が可能となることも考えられたしかしながら、内視鏡の固定や血液排除はやはり困難であったとの報告もみられる。現時点で血管内視鏡は、他の画像診断で判定困難な区域枝入口部の血栓の存在の有無を明らかにすること、血管炎や腫瘍と血栓の鑑別に使用すること、新旧の血栓を鑑別し溶解療法の適応を決定することなどに有用と考えられた。肺動脈へのアプローチ法や観察に至適なファイバーの選択も定まっておらず、アプローチ法の確立、至適ファイバーの開発も重要と考えられた。
|