研究概要 |
家族性ア病変異体を過剰発現させることで株化神経細胞に細胞死を誘導する系を用いて、様々な細胞のアポトーシスの過程で主要な役割を果たすことが報告されているシステインプロテアーゼファミリーのカスペースの関与について検討した。カスペース阻害ペプチド(切断部位のテトラペプチドのアルデヒド体)を用いて細胞死率の変化を観察した。その結果、London型APP変異体(642番目のValがIleに変異)による細胞死は使用した全ての阻害ペプチドで有為な抑制効果が認められた。とりわけ、DEVDおよびDQTDが最も強く抑制したことから、介在カスペースは、7型と推定された。更に興味深いことに、カスペース8やカスペース1/4/5といったinitiator caspaseの介在は推定されなかったことから、FasやTNFなどの細胞死シグナルとは異なり、London型APP変異体による細胞死シグナルはカスペースカスケードを形成しない新規の分子機構を活性化すると考えられた。一方、野生型APPは強発現によって、変異体よりは弱い細胞死が誘導されるが、DEVD型阻害ペプチドにより、London型APP変異体による細胞死は野生型APPが同じ発現量で誘導する細胞死まで抑制された。このことから野生型APPが誘導する弱い細胞死はカスペース阻害ペプチドに抵抗性があることが示唆された。更に、いかなる阻害ペプチドによっても、Sweden型変異体(595,596b番目のLys,MetがAsn,Leuに変異)による細胞死率には抑制は認められなかった。これらのことから、APP変異体による細胞死は変異の部位により異なる細胞死機構を活性化させること、その細胞死機構にはカスペース依存性と非依存性の経路があることが推定された。さらに、従来の検討でデスドメインであると推定されるH657-K676領域を欠損した変異体APPの検討から、カスペース依存性機構は正にこの領域が活性化していること、野生型APPによる弱い細胞死はこの領域には依存しないこと、すなわち、APPにはデスドメイン以外にも細胞死を誘導する機能が存在することが推定された。更に、プレシナリン1および2の野性型、ア病変異体(各々、M146L,N141I変異体)に対する、カスペース阻害ペプチドの効果を検討した。APP同様、PS1,2共に野性型でも低率の細胞死を誘導したが、いずれのア病変異体PS1,2共に、著しく増強された細胞死を誘導した。PS1変異体による細胞死、PS2変異体による細胞死共に、検討した条件ではカスペース抵抗性であった。現在、ア病原因遺伝子によるカスペース非依存性の細胞死機構の詳細について検討中である。
|