血管内皮細胞は、動脈硬化発生の初期段階に大きく関与しており、その形態が血流による「ずり応力」の負荷により変化するため、細胞のバイオメカニクスの解明に興味が注がれている。本研究の目的は、弾性波としての性質を有する超音波を用いて、細胞のバイオメカニクスを計測することである。 このため、平成10年度は当研究分野に設置済みの超音波顕微鏡システムに、本年度購入した高周波数対応送受信機を組み込み、使用可能周波数を従来の200MHzから800MHzまで対応可能なように改造することに成功した。同時に音響特性を定量計測するためのソフトウェアも開発し、組織の音速が短時間で計測可能となった。これらの改造により、超音波顕微鏡による細胞レベルでの音響計測が実現された。 さらに、バイオメカニクスの変化が音響計測により検出できることを証明するため、「ずり応力」の負荷の前後における血管内皮細胞の形態観察、および音響特性計測を行った。ウシ大動脈血管内皮細胞をconfluentな状態に培養し、この表面にPBS溶液を24時間、連続流ポンプで流し、4Paの「ずり応力」を与えた。血管内皮細胞は「ずり応力」負荷前には円形に近く、細胞質の音速が1570m/s、核の音速が1610m/sであったのに対し、負荷後には流れの向きに沿って細胞全体が紡錘形に変化し、これに伴い細胞質の音速が1590m/sに増加した。音速は物質の弾性と密接な関係があり、超音波顕微鏡の細胞のバイオメカニクス計測に対する有用性が証明された。
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