細胞膜の特殊ドメインであるカベオラは、シグナリングの効率化や特異性に寄与すると推測されており、心筋肥大の情報伝達にも関与することが考えられる。肥大心筋におけるカベオラ及びカベオリンの制御を解明するために、α^1アドレナリン受容体刺激による肥大心筋細胞における両者の変化を検討した。α^1アドレナリン刺激薬であるphenylephrine(PHE)及びPKCの直接刺激薬であるphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)を新生児ラット心筋細胞に投与すると、心筋肥大を形成した。これらの細胞のカベオラ数を走査電顕で計測すると、カベオラ数はvehicleに比しPHEで4.0±1.9倍増加し、PMAでは1.7±2.4倍増加していた。カベオラ数増大に細胞内Ca^<2+>上昇が関与する可能性を計測し、Ca^<2+> ionophoreであるionomycinを心筋細胞に投与すると、PHEと同等のカベオラ増大効果がみられた。さらに細胞内Ca^<2+>のキレート剤であるBAPTAをPHEに加えて添加すると、PHEによるカベオラ数の増大効果は、vehicleと同程度まで抑制された。次に心筋カベオラの主要構成蛋白であるカベオリン-3の肥大心筋細胞での発現量の変化を検討した。カベオリン-3蛋白及びmRNAの発現は、vehicleに比しPHEで著明に増大し、PMAでは軽度増大、ionomycinでは両者の中間程度であった。PHEに加えてBAPTAを併用投与すると、PHEによるカベオリン-3の増大効果は、著明に抑制された。最後にカベオリン-3の細胞内分布の変化を免疫蛍光抗体法を用いて検討したが、各刺激薬の投与で特に変化はなかった。以上から、α^1アドレナリン刺激による肥大心筋細胞ではカベオラ数とカベオリン-3発現の増加がみられ、その機序としては細胞Ca^<2+>上昇を介することが推測された。
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