研究概要 |
我々はすでに,in vitroでトラピジルがPDGFによるラット血管平滑筋細胞増殖を抑制すること,及びその機序がmitogen-activated kinase(MAPK)抑制を介すことを明らかにしている.さらに,トラピジルが細胞内cAMPを増加させることも示し,MAPK抑制がおそらくcAMP増加を介していることを提唱した(Hypertension.1998; 31; 665-671.). 今回我々は,トラピジルの作用機序をさらに明らかにするため,トラピジルとcAMP増加物質であるフォールスコリンの血管平滑筋細胞に対する影響を比較検討した.まず,フローサイトメトリーを用いてラット平滑筋細胞細胞周期に対する影響を検討した.その結果PDGFが細胞周期を促進し,トラピジル,フォールスコリンともにその促進を完全に抑制することを明らかにした.次に,細胞周期関連蛋白であるサイクリン,サイクリン依存性キナーゼ(CDK),CDKインヒビターに対する影響を検討した.そこでは,両試薬ともにPDGFによるサイクリンDl,サイクリンA蛋白量増加を抑制すること,及びCDK4,CDK2の活性を抑制することを明らかにした.しかし,CDKインヒビターに対する影響は両試薬で完全に異なっていた.すなわち,p27はPDGFで減少し,トラピジルはその減少に影響を与えなかったが,フォールスコリンはPDGFによる減少を完全に回復させた.p21はPDGFにより増加し,フォールスコリンはその増加に影響を与えなかったが,トラピジルはその増加を完全に抑制した. CDKインヒビターに対する影響が異なったことから,トラピジルにはcAN4P増加を介さない細胞周期抑制機序の存在が予想される.その候補一つがsmall G protein familyであるRhoAであり,現在RhoAに対する両試薬の影響を検討中である.
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