1)昨年度に追跡調査の終了した39名中、治療前の生検組織診断時の組織量が比較的十分に採取されていた26名において、癌抑制遺伝子p-53によって合成される蛋白の発現状況を酵素抗体法で検討した。染色にはNovo-Castra社のp-53protein kitを使用、染色用一次抗体はDo-7であった。腫瘍細胞核の明らかな染色を認めたものをp-53蛋白陽性として判定すると、7例(26.9%)で陽性であった。 2)中咽頭癌8例中2例(25.0%)、下咽頭癌11例中5例(45.5%)という陽性率に対して喉頭癌では7例の染色例中陽性例を認めなかった。一方、染色した中・下咽頭19例のうち、原発巣がT1-2であった8例中でのわずか1例(12.5%)でp-53蛋白陽性であったのに対して、T3-4であった11例中では6例(54.5%)と高率にp-53蛋白が陽性であり、腫瘍の進行・増大に伴ってp-53蛋白の発現率が上昇する傾向が認められた。リンパ節転移とp-53蛋白発現との関連は認められなかった。Kaplan-Meier法にて算出した3年無病生存率ではp-53蛋白陽性例21.4%に対して陰性例41.7%であり、症例数が十分でないこともあって有意差は認められなかった。 3)39名の予後を治療法別に検討した。何らかの化学療法の同時併用療法が行われたのは21名、残りの18名は放射線治療単独であった。手術標本において組織学的に照射効果を認めたのは、放射線治療単独の18例中6例(33.3%)に対して、化学療法併用21例中では19例(90.5%)であった。また、原発巣の大きさでは比較的小さいT1-2の12例中10例(83.3%)で照射効果を認めたのに対して、T3-4では27例中15例(55.6%)であった。原疾患およびリンパ節転移は照射効果と関連を認めなかった。3年無病生存率を用いた予後解析では、照射効果の有無が有意な因子であった。関連する因子であった併用化学療法の有無、原発巣の大きさ(T stage)については、有意差を認められなかった。 5)p-53蛋白の発現は腫瘍の大きさと相関し、原発巣が大きくなるほど陽性率が高くなる傾向が得られ、予後不良因子の一つとなる可能性がある。しかし、有意の予後因子である照射効果には併用化学療法の有無の方がより大きく影響していたため、p-53蛋白の発現率は予後に影響しないと言う結果になったと考えられる。
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