脂肪の豊富な臓器である乳房の造影MRIを行う上で脂肪抑制法は有効な手法だが、従来からの主流であるFat Sat法では、撮像時間の延長や多数の撮像断面で脂肪抑制効果が均一に得られないという問題があった。我々は平成9年6月より周波数選択励起IRパルスによる新しい脂肪抑制法を用いて、現在までに約120例の乳腺dynamic MRIを施行した。この方法は造影MR angiographyに用いられる手法として知られ、わずかな濃染も非常に鋭敏に描出することができる。また従来法と同じ約1分の1回撮像時間を維持してもスライス厚は従来法の半分となり、かつスライス間隔のない画像が得られる。その結果明らかに従来法よりコントラストに優れており、腫瘍をより明瞭な濃染域として描出することが可能だった。また3次元表示画像の作成も可能となり、乳癌の術前シュミレーションに有用だった。極端に脂肪の多い乳房や非常に小さな乳房の症例を除き、ほぼ全例簡便な撮像操作で均一な脂肪抑制効果が得られ、これは全検査時間の短縮にもつながり、最高86歳の患者の腹臥位での検査が十分可能だった。 この新しい手法を用いた乳腺dynamic MRIでは、これまで病理結果が得られた範囲では腫瘤形成のある乳癌は全例描出できた。しかし腫瘤形成のない乳管内癌は描出できない症例や過小評価となった症例が存在した。また外科的摘出生検後の微小残存癌の評価については、生検の影響で画像が修飾されるため困難な場合が多かった。次年度はこれらの微小乳癌のこの方法による描出能を中心に検討する予定である。
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