1.健常ボランティアにおける検討 健常ボランティア10名を対象として、左大脳半球の島・弁蓋〜被殻を含む部位に関心領域を測定し、フルマゼニル0.25mg静脈内投与前後のプロトン磁気共鳴スペクトルの測定を行った。フルマゼニル投与前後の不安尺度をpanic anxiety symptom scaleおよびvisual analog scaleにて評価した。同時に血中乳酸濃度、カテコラミン、コルチゾールの測定と心拍数の記録を行った。これらの精神心理学的、生化学的、生理学的データと磁気共鳴スペクトル所見の対比を行った。健常者ににおいては全例フルマゼニル投与によりパニック発作は誘発されなかった。磁気共鳴スペクトルにおいては有意な脳内乳酸レベルの変動を認めなかった。生化学的、生理学的データにも有意な変動は見られなかった。 2.パニック障害患者における検討 パニック障害患者17名において同様の測定を行った。強い発作誘発によりその後の測定が出来なかった2名を除いた15名(発作誘発6名、発作非誘発9名)の測定結果を検討した。磁気共鳴スペクトルによる脳内乳酸レベルは各被験者群間および各被験者群内で有意差は認められなかった。血中乳酸、アドレナリン、コルチゾールレベルにおいては有意差を認めた。フルマゼニル誘発パニックでは乳酸誘発パニックで指摘されているような脳内乳酸レベルの変動を認めなかったことから、誘発刺激によって脳内乳酸代謝に及ぼす影響が異なることが示された。パニック障害患者における血中乳酸濃度上昇に関しては、交感神経副腎髄質系の活動亢進の関与が示唆された。本研究の成果は第11回国際筋電図・臨床神経生理学会において発表し、欧文学術雑誌に投稿中である。
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