精神分裂病の中核症状のひとつである幻聴は、患者自身の言語的思考のモニタリングの障害であるという仮説がある。本研究の目的は、活発な幻聴をともなう精神分裂病患者、幻聴をともなわない精神分裂病患者および健常被験者に、自己の言語的思考を動員する認知課題をおこない、賦活される脳部位パターンをPETを用いて比較し、精神分裂病の幻聴の神経機構を明らかにすることである。本年度は主として健常被験者のデータ収集・解析をおこなった。 認知課題としては言語性記憶再生課題を用いた。本課題では、2つの異なる学習方略(知覚的記憶に依存した方略と意味的記憶に依存した方略)により同じ単語を記憶した後、その単語を再生する時にPETスキャンをおこなう。これにより、ある単語を再生する時、その単語を憶えた時の方略の違いが、いかに賦活脳部位の違いを生じるかを知ることができる。精神分裂病患者では、単語の意味情報が利用される時に賦活されるネットワークが健常被験者とは異なっていると考えられている。さらに幻聴のある患者とない患者でも異なる可能性がある。したがって本課題によって幻聴のある精神分裂病患者、幻聴のない精神分裂病患者、健常被験者の賦活脳部位パターンの違いが明らかになると予想される。対象は既往歴のない12人の右利き健常男性(平均年齢24.1歳)で、ベースライン課題としては記憶に頼らず語産生を要求する課題を用いた。 2つの異なる学習方略の直接比較により、知覚的記憶が側頭葉内側部領域のさらに内側部分に、意味的記憶がその外側部分に関連することが示された。各々の課題とベースライン課題との比較でも同様であった。 これらの結果より、健常人では側頭葉内側部において2つの異なる記憶機能の処理経路が存在していると考えらた。来年度は、本課題を精神分裂病患者に実施し健常被験者の賦活脳部位パターンの違いから精神分裂病の幻聴の病態を明らかにする。
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