アルツハイマー病における異常リン酸タウ蛋白の産生メカニズムについて知るために、タウ蛋白のリン酸化酵素の一つであるグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)、および細胞内情報伝達系においてGSK3の活性をリン酸化によって抑制的に制御するプロテインキナーゼB(PKB)とプロテインキナーゼC(PKC)について検討をおこなった。まずGSK3の活性化レベルを識別するリン酸化特異性抗体(OPR-1)を作成し、その免疫組織学的検討では、海馬の神経細胞、得にCA1の錐体細胞および歯状核の顆粒細胞が染色された。次に、293T細胞へのPKB遺伝子とタウ遺伝子のトランスフェクションをおこなうと、内在性のGSK3はPKBによってリン酸化され、GSK3活性は抑制され、さらにタウ蛋白のリン酸化レベルが減少した。また、PKBを制御する細胞内情報伝達系の上流にあるフォスファチジルイノシトール3キナーゼのインヒビターであるwortmanninを神経芽細胞腫に添加すると、GSK3は一次的に立つ脱リン酸化、タウ蛋白は一次的にリン酸化を起こした。この過程においてGSK3の再リン酸化とタウ蛋白の再脱リン酸化は、アポトーシスのメカニズムによって活性化されたPKCδによるGSK3のリン酸化が原因であることを突き止めた。そして、GSK3の活性制御においてPKC群はあまり注目されていなかったが、この研究によりその重要性が再認識された。そして、GSK3のキナーゼ活性を直接抑制するリチウムとバルプロ酸はタウ蛋白の脱リン酸化を誘導し、この機序にはGSK3への直接の抑制機序に加えてPKCなどを介する間接の抑制機序が存在することが明らかとなった。
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