【緒言】生命予後が良好なために心理社会的因子との関連が深いといわれる乳がん患者を対象として、がんへの罹患が患者や家族の心理状態あるいが家族全体の機能におよぼす影響を、標準化された評価尺度を用いて調査した。【対象と方法】広島大学医学部附属病院乳腺外来に通院中の乳がん術後成人女性患者のうち、書面で調査への同意が得られた49例とその同居家族(配偶者35名、子30名を含む)計120名を対象として、その心理的苦悩(不安・抑うつ)および家族機能について、それぞれZung Self-rating Anxiety Scale(SAS)、Zung Self-rating Depression Scale(SDS)、Family Relationships Index(FRI)の各日本語版によって評価した。【結果】(1)全体でみると、抑うつ(SDSスコア40点以上)が患者の41%、配偶者の37%、子の57%に、不安(SASスコア40点以上)が患者の16%、配偶者の11%、子の20%に認められた。(2)抑うつ的な患者29例のFRI総合スコアは、抑うつ的でない患者20例のそれに比べた有意に低下していた。(p<0.01)が、配偶者のFRIスコアは、抑うつの有無による差はなかった。【考察】欧米では、がん患者の家族が心理的ストレスを被る割合は18〜34%といわれている。今回の調査でもほぼ同様の結果が得られており、がんの治療経過は患者ばかりでなくその家族の心理にも大きな影響を及ぼしていることがうかがわれた。またわれわれは、平成10年度の研究で乳がん患者の心理状態が家族機能と密接に関連していることを明らかにしたが、本研究において、抑うつ的な患者は家族機能を低く評価しやすいのに対し、配偶者においてはそうした傾向がなかったことから、抑うつなどの心理的ストレスは夫婦双方の家族機能認知に悪影響を与え、ひいては家族全体の機能にまで影響を及ぼしている可能性が強く示唆された。現在これらの知見を盛り込んだ「がん情報への取り組み方/患者用・家族用マニュアル」を作成中である。
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