研究概要 |
グルタミン酸トランスポーター(EAATs)のknock outを用いた研究を通じて、EAATsは同膜蛋白の機能障害がてんかん性異常獲得の一機序ではないかと注目されている。今回我々は、扁桃体にprimary epileptogenic focusをもつてんかんモデルを作成し、同モデルにバルプロ酸ナトリウム(VPA)を慢性投与し、VPAがはたしてアミノ酸トランスポーター発現異常に対して是正効果を有するかを検討した。24匹の雄性Sprague-Dawley rats(8W齢)を4群に分け、ネンブタール麻酔下、各4群のラットに次のような実験を施行した。S-S群(n=6);左扁桃体にpH2.2の生理食塩水(saline)を1.5μl注入後、0.12mlのsalineの投与(s.c.)を2週間行った。S-VA群(n=6);左扁挑体にpH2.2の生理食塩水(saline)を1.5μl注入後、VPA(60mg/kg,0.12ml)の投与(s.c.)を2週間行った。Fe-S群((n=6):左扁桃体にFeCl3水溶液(pH2.2)を1.5ul注人後、0.12mlのsalineの投与(s.c.)を2週間行った。Fe-VA群((n=6);左扁挑体にFeCl3水溶液(pH2.2)を1.5μl注人後、VPA(60mg/kg,0.12ml)の投与(s.c.)を2週間行った。皮下注による投与終了後、各群のラットから海馬を摘出、anti-GLAST,anti-GLT-1,anti-EAAC-1、anti-GAT-1の抗体を用いてWestern blotを行い、各群における膜蛋白発現の解析を行った。VPA投与を2週間行ったS-VA群のEAAC-1,GLT-1,GAT-1各蛋白の発現率はS-S群と比較し減少していた。Fe-S群ではEAAC-1,GLT-1,GAT-1各蛋白の発現率は増加していた。Fe-VA群ではGLT-1,GAT-1は共に減少したが、EAAC-1はFe-S群と比較し変化が見られなかった。GLASTはS-VA群で増加を、Fe-S群では減少、Fe-VA群では増加を示した。また、β-tubulinの発現率には、各群ともに有意差を認めなかった。鉄塩注入14日後の海馬におけるGLT-1、EAAC-1並びにGAT-1はともに増加し、そのうちGLT-1とGAT-1はVPAの慢性投与によってその発現は抑制された。その一方でneuron由来のEAAC-1に対してはその抑制効果は観察されなかった。GABA synthesisを促し、てんかん性異常獲得の過程における代償的作用を示すと報告されているEAAC-1の発現増加は、VPAによっては抑制されないことが示された。GLASTはてんかん源性獲得後、低下を示し、VPAはそのdown-regulationに対しての是正効果を有していることが示された。
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