ボルナ病ウイルス(BDV)と精神疾患との関連は我国においても議論が行われてきた。我々は、九州北部(筑後地方)における健常者210人、精神疾患患者89人(分裂病54人、うつ病19人、その他16人)を対象にボルナ病ウイルス(BDV)に対する抗体と遺伝子の保有率の調査を行なった。大腸菌で発現させたBDVの蛋白(p40、p24、gp18)を抗原とするウエスタンブロット法により抗体陽性者は、健常者、精神疾患患者とも皆無であった(0%)。また、検出感度100コピーの系で末梢血単核球RNA1mg中にNested RT-nested PCRによりBDV遺伝子が検出された者は、健常者ではp40が1人であった(0.6%)。一方、精神疾患患者では精神分裂症患者1人でp24が検出された(1.8%)。従って、BDVと調べた精神疾患との間には関連はなかった。しかし、同一個体から両方の遺伝子が同時に検出できなかった理由は不明である。我々の調査結果はこれまで、我国で報告されている検出頻度よりも低いが、これは、BDV感染の地域特異性を反映している結果かもしれない。 Nested RT-nested PCRにより検出されたBDV p40(遺伝子431-986)とp24(遺伝子1372-1768)の塩基配列を決定し(accession No.AB030739、AB030740)、DDBJのデータベースと比較を行った。p40はウマ由来のBDV He/80株と全く同一で、同じくウマ由来のV株とは23箇所の同義置換、1カ所の非同義置換があった。p24はHe/80株と1カ所の同義置換、V株とは11箇所の同義置換があった。このことはBDVはウマ由来の株もヒトに感染しうることを示唆している。
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