これまでの多くの研究により特定の遺伝子を糸球体に導入することによる糸球体腎炎治療の可能性は示唆され、糸球体に特異的かつ効果的に遺伝子を導入する方法の開発が進んでいるものの未だに多くの問題点を抱えている。そのひとつは糸球体腎炎の特徴としてその病期がそれぞれの糸球体でまちまちであることであり、炎症が進行した部位とほとんど正常に近い部位とが混在することが多く見られる。そこで炎症の部位及び時期に特異的に遺伝子を導入することが必要となる。今回我々は骨髄細胞をCSF-1等の単核球系に分化誘導しやすい環境下で培養することにより、炎症部位に発現する接着分子ICAM-1のリガンドを持った細胞をつくり、この細胞を担体とし炎症部位に特異的に遺伝子を導入する方法を開発した。このシステムにより、ICAM-1が発現している糸球体にマーカー遺伝子を導入することが可能であることを確認できたため、マウスの実験腎炎モデルを用い炎症糸球体に抗炎症性サイトカインであるIL-1receptor antagonist(IL-1ra)を導入し、治療効果を検討した。実際にはマウスの骨髄から得た担体細胞にアデノウイルスを用いてIL-1ra遺伝子を導入した後尾静脈を介して戻し、これらのマウスに抗基底膜抗体を投与し糸球体腎炎を励起させたところmock細胞を投与した群においては多量のアルブミン尿、血中クレアチニンレベルの上昇を認めたが、IL-1ra産生担体細胞を投与した群ではこれらは有意に抑制された。組織学検討でも抗GBM抗体投与14日目に半月体形成率がIL-1ra投与群に有意に低下していた。以上より、我々の開発したex vivo遺伝子導入法は一部の糸球体腎炎進行を一定期間抑正することが可能であることが示唆された。現在慢性進行性腎炎への適応を目標に、骨髄幹細胞を使用した長期間安定な遺伝子導入法の開発を進めている。
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