動脈硬化病変の進展に曲中酸化的ストレス増加が重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつある。透析患者では酸化的ストレスが几進していることが報告され、これが内皮傷害を通じて血管病変をもたらす可能性が示唆されている。そこで、今回我々は血液透析によって血管内皮機能が低下しうるか、又それが抗酸化剤コートダイアライザーにより如何に変化するか検討した。血液透析患者8人(男4女4:年令44±4才)を対象とし、血液透析における酸化的ストレスの関与を検討するために、抗酸化剤であるビタミンEをコートしたダイアライザーを使用し、血管内皮機能の変化を検討した。第1回目の検査日にセルロース膜ダイアライザーとビタミンEコートダイアライザーをランダマイズし用い、1週間後の第2回目の検査日には1回目と異なる同じサイズのダイアライザーを使用した。また、検査日は絶食にし透析向後で採血と血管内皮機能検査を行った。酸化的ストレスの指標として酸化LDLをモノクローナル抗体を用いたELISA法によって、透析患者の内皮機能異常に関与するとされるエンドセリンをBIA法により測定した。血管内皮機能測定法として高解像度超音波ドップラーを用いた反応性充血による血管径及び血流の変化を計測した。内皮の関与しない非特異的な血管反応性を検討するために、ニトログリセリンによる血管径及び流速の変化を測定した。患者の平均透析歴7.7±4.3年であり、現疾患の内訳は慢性糸球体腎炎6名・胃硬化症1名・Fanconi症候群1名であった。透析による除水で全例で透析後に体重は減少したが、血圧・心拍数は有意な変化認められなかった。この傾向はセルロース膜ダイアライザー使用時とビタミンEコートダイアライザー使用時共に見られた。血管内皮機能検査の結果では、セルロース膜ダイアライザーでは反応性充血による内皮依存性の血管の拡張率は透析後で有意に低下したが、ビタミンE コートダイアライザーではむしろ明らかに上昇した。血流量はセルロース膜では血管径と同様に低下したが、ビタミンEコートダイアライザーにおいては前後の明らかな変化は見られなかった。ニトログリセン舌下による内皮非依存性血管拡張率にはセルロース膜ダイアライザー・ビタミンEコートダイアライザー間には差が見られなかった。酸化的ストレスの指標としての酸化LDLはセルロース膜ダイアライザー使用後に有意に増加したが、ビタミンEコートダイアライザーではむしろ低下傾向にあった。内皮由来血管収縮物質であるエンドセリンもセルロース膜ダイアライザーでは増加傾向にあったがビタミンEコートダイアライザーでは低下傾向にあり、その変化率に二群間で明らかな差を認めた。単回の血液透析によって血管内皮機能が抑制されることが明らかとなった。その機序として透析による酸化的ストレスの亢進が関与している可能性が示唆された。この結果は、American Society of Nephrologyにて大きな反響を呼び、国内においても、日本脈管学会シンポジウム発表、日本心臓財団奨励賞受賞なと高い評価を得て、現在欧文一流誌に投稿中である。
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