本研究はインターフェロンγ(IFNγ)応答遺伝子の一つ、interferon regulatory factor-1(IRF-1)遺伝子の発現が甲状腺刺激ホルモン(TSH)や抗甲状腺剤により影響を受けるかを、ラット培養甲状腺細胞FRTL5を用いて検討するものである。IRF-1mRNAレベルをノーザンブロット法で解析したが、これはIFNγにより明らかに増加した。細胞をIFNγとTSHとで同時に刺激すると、IRF-1mRNAレベルはIFNγ単独時に比べると、その70-80%に低下した。細胞をIFNγとcAMP誘導体ないしforskolinとで同時に刺激した場合も、TSHの時と同様であった。FRTL5細胞をIFNγと抗甲状腺剤のメチマゾール(MMI)で刺激した場合も、IRF-1 mRNAレベルはIFNγ単独時に比べると、その70-80%に低下した。他の抗甲状腺剤のプロピルチオウラシルや構造類似体のイミダゾールにはそのような効果はなかった。次にTSHとMMIがIFNγの細胞内情報伝達系のより上流に位置する転写因子STAT1αの活性化に影響を及ぼすほかウエスタンブロット法で検討した。IFNγはFRTL5細胞においてSTAT1αを明らかに活性化した。TSHとMMIはIFNγによるSTAT1αの活性化を軽度(10-20%)抑制した。以上のようにTSHとMMIはIFNγによるIRF-1遺伝子の発現に影響を及ぼすが、その効果は軽度であり、これらのIFNγの細胞内情報伝達系に対する作用点は他にあるものと推測された。第71回アメリカ甲状腺学会(平成10年)で成果の一部を発表した。
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