研究概要 |
グルココルチコイドは臨床的には,多くの炎症性疾患や免疫アレルギー疾患の治療に広く用いられており,高血圧症などの組織特異的な副作用の発現や,グルココルチコイド抵抗性が生じる機序は不明である。近年,ステロイド受容体による遺伝子転写制御において,受容体とホルモン依存性に結合して,基礎転写因子複合体と受容体の間の橋渡しをする転写共役因子(coactivator,corepressor)がクローニングされ,その病態生理学的役割が注目されている。標的臓器におけるホルモン感受性を調節する因子として,局所のホルモンの濃度や,組織特異的に発現している転写共役因子の発現量が考えられる。多くの転写共役因子はすべての組織にubiquitousに,しかし限られた量が発現していることが報告されている。したがって,リガンド投与により,組織特異的に転写共役因子の発現量が変化すれば組織特異的な作用の原因となりうる。そこで本年度は,in vivoのラットを用いてデキサメサゾン投与時の組織特異的な転写共役因子の発現量を検討した。 まず,in vivoのSDラットにデキサメサゾンを経口的または経腹腔的に投与(15mg/kg体重)し,投与4時間,8時間,12時間,24時間,72時間,8日後と経時的にラットを屠殺し,各臓器を摘出した。まず,各時点におけるラット血漿ACTHおよびコルチコステロン濃度は投与前と比べて有意に抑制されており,デキサメサゾンが各ラットに十分量投与されていることを確認した。次に,各時点におけるグルココルチコイド受容体(GR),coactivatorのSRC-1(steroidreceptor coactivator-1),CBP(CREB-binding protein)mRNA量をNorthem blotまたはRT-PCR法にて検討した。その結果,肝臓,腎臓,心臓および胃においてGR mRNAは投与4時間後に著明な低下を認め,以後もとのレベルへ上昇した。そして,coactivatorの発現量では,SRC-1 mRNAは検討した臓器において期間中有意な変化を認めなかったが,興味深いことにCBP mRNAは,腎臓および心臓において投与後4時間後に一過性の有意な減少を認め,以後徐々に上昇した。以上より,coactivatorそのものもグルココルチコイドにより組織特異的なdownregulationを受けること,またcoactivatorの種類によりSRC-1とCBPは異なる発現調節を受けることが示唆された。次に,リガンドによるcoactivatorの発現調節が遺伝的に高血圧を発症するラットにおいて違いがあるか検討するために,高血圧自然発症ラット(SHR)および対象としてWKY ラットにおいて同様の検討をしたが,有意な差を認めなかった。次のステップとしては,転写共役因子の発現がリガンドにより組織特異的な発現調節が起こる機序を検討する必要があり,in vitroの培養細胞を用いて,グルココルチコイドおよびGR拮抗薬を用いて詳細な発現調節をmRNAレベルのにならず,蛋白レベルでも検討すること,また,GRE(グルココルチコイド応答配列)を含むレポーター遺伝子を用いたtransient transfection assayにて転写活性を測定し,coactivatorの組織特異的な発現量がグルココルチコイド作用に及ぼす機能的解析も行う予定である。
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