エストロゲンは女性の生殖器官のみならず、骨組織、心血管系組織、脳神経組織などの広範囲の臓器に対して、様々な生理作用を及ぼすことが明らかになっている。申請者はアロマターゼ(エストロゲン合成酵素)の様々な臓器における生理機能を解明することを目的としてジーンターゲティング法によりアロマターゼ欠損マウス(ArKO)を作製し、病理組織学的検索や表現型の解析を行うことを計画した。今年度の研究ではArKOマウスの表現型を調べるとともに、脳の性分化おける本酵素の役割に注目して、ArKO雄マウスの性行動の解析を行った。ArKOマウスは、プロモーター領域、エクソン1および2を置換することによりアロマターゼ遺伝子の転写及び翻訳開始領域を欠損したヘテロ接合体同士の交配から作製した。ホモ接合体マウスは外見上の異常は認められなかったが、ホモ接合体雌マウスでは子宮の極端な委縮及び多嚢胞卵巣が認められた。また雌雄マウスともに、腹膜や腸間膜における内臓脂肪を含めた脂肪組織が明らかに増加していた。主たるアロマターゼ発現臓器である卵巣および新生仔脳のRNAのRT-PCR解析でArKOマウスにはアロマターゼmRNAは検出できなかった。野性型、ヘテロ変異およびArKO雄マウスのマウント回数、およびマウント潜時について測定したところ、ArKOマウスでは野性型やヘテロ変異体マウスに比べて有意にマウント回数が少なく、マウント潜時が長いことから、性行動の活性が落ちていることが示唆された。さらにArKO雄マウスについて繁殖力を調べると、精巣上体に精子が認められるにもかかわらず正常雌との2ヵ月間の交配において10匹のうち1匹にしか妊娠が認めれらなかった。以上のように、脳内アロマターゼは雄の性行動の発現に重要な役割をもつことが示された。
|