研究概要 |
発症早期のヒト1型糖尿病患者の膵島には、T細胞を中心とするリンパ球浸潤を認め、液性免疫よりも細胞性免疫がその病因として考えられているが、T細胞の機能異常については、十分に検討されていないのが現状である。まず我々は、典型的な急性発症1型糖尿病患者(年齢20-40歳)を対象として、その発症直後で、かつインスリン治療前の血清を用いて、その血清中のIFNγ値(T-helper 1;Th1)とGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)65抗体価(IgG1;Th2)との関係を検討した。特に遺伝的な背景に着目することなく全体で検討した際には、両者に関係は認めなかったが、日本人1型糖尿病に多いHLA-DR4もしくはDR9に絞った場合、血清中のIFNγ値とGAD65抗体価とはきれいに逆相関した。すなわち、我々がこれまでに動物モデルにて提唱してきたpolyclonalなTh1反応と膵β細胞抗原特異的なTh2反応とがバランスをとり、発症を制御している可能性がヒト1型糖尿病でも示された。また、これまで我々は、初診時インスリン治療を必要としないGAD65抗体陽性糖尿病患者において、GAD65抗体高力価群(10u/ml以上)とGAD65抗体低力価群(1.5-9.9u/ml)とで比較した場合、高力価群で比較的早期(5年以内)にインスリンを必要とし、低力価群では長期にわたりインスリンを必要としない臨床像を報告してきた。そこで、GAD65抗体高力価群、低力価群における末梢血リンパ球の抗CD3抗体刺激に対するサイトカイン反応の差異について検討したところ、GAD65抗体価とIL-10値とは、GAD65抗体低力価群では相関を認めなかったが、GAD65抗体高力価群では有意な正の相関を認めた。(r=0.654,p<0.03)。以上の末梢血Tリンパ球のサイトカイン反応の検討から、初診時インスリン治療を必要としないGAD65抗体陽性糖尿病患者において、GAD65抗体高力価群と低力価群とでは異なる病態を呈し、この違いが両群の臨床像の違いに反映している可能性が示唆された。
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