近年の免疫抑制療法の開発にともない、急性拒絶反応については回避できるようになってきたが、長期移植片の生着成績についてはこの10年間大きな変化をみていない。この長期生着移植片の喪失の最大の原因は慢性拒絶反応である。我々は現在までに、この慢性拒絶反応の発達には、アロ抗原特異的因子とアロ抗原非特異的な因子が関与しており、ラット腎移植モデルにおいては、移植後16週目頃よりマクロファージが特異的に移植片内に集積し、以後、移植片が長期間にわたって崩壊していくとことや、マウス心移植のモデルでは、初期のIFN-gの活性化やそれにともなう血管内皮細胞の接着分子(ICAM-1、VCAM-1)の発現などが、その病変の成立に強く関与していることなどを報告してきた。本年度には、マウス心移植の系においてノックアウトマウスを用いて、他のサイトカインネットワークの関与について検討したところ、この慢性拒絶反応の成立には、IFN-g以外では、TNF-a、IL-4は必ずしも必要な因子ではないことが判明した。また、さらにTNF-a、IL-4については、T細胞と血管内皮細胞との初期の相互作用の中で、種々の内皮細胞上に発現する接着分子(ICAM-1、VCAM-1)やMHCのclassIIの発現には特に関与していないことも明らかになった。一方、この慢性拒絶反応については、ラット肝移植モデルにおいても実験を進めており、DA-WSの系において、移植後一定期間のみ、免疫抑制剤を少量、短期間(10日間)投与した場合には約12から16週めには移植肝に線維化が出現し、胆管や肝動脈に狭小化が出現することがわかった。今後は、肝移植片における慢性拒絶反応の解析へと発展できる可能性がと思われる。
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