本研究においては以下の2点について研究成果を得ることを目的とした。 1.HTLV-1(human T-lymphotropic virus)抗体陽性者の消化管原発悪性リンパ腫症例の腫瘍部におけるHTLV-1感染を証明し、HTLV-1の本症の発生、進展における関与の有無およびそのメカニズムの解明。 2.消化管原発悪性リンパ腫症例におけるマイクロサテライト領域の不安定性およびミスマッチ修復遺伝子の検討を行ない、その発生におけるミスマッチ修復機構の異常の関与を証明し、さらに本症に特異的なマイクロサテライト領域およびDNAミスマッチ修復遺伝子の解明。 上記1.に関しては、当科における消化管原発悪性リンパ腫症例12例中6例(50%)においてHTLV-1抗体価の上昇が認められ、L-26、UCHL-1、CD79抗体を用いた免疫組織化学的検討にて6例がT細胞型であった。T細胞型の4例およびB細胞型の2例にHTLV-1抗体価の上昇を認めHTLV-1感染の関与の可能性が疑われた。HTLV-1プロウイルスのモノクローナルな組み込みの有無を確認していく予定である。上記2.については、11症例においてホルマリン固定パラフィン包埋切片標本により腫瘍部および非腫瘍部のDNAをフェノール・クロロホルム法にて抽出し、マイクロサテライトマーカーを用いてPCR-SSCP法にて異常バンドを検出することによりマイクロサテライト不安定性の解析を行った。当初、筆者らが以前より保有し、胃癌や食道癌、頭頚部癌において比較的陽性率の高い7カ所のマーカー(D1S213、D2S123、D8S135、D10S197、D17S518、D17S807、D18S34)にて検討したが、陽性率が低値であったため、さらに5カ所のマーカ(D3S1261、D3S1262、D3S1265、myc、TP53)を新規合成し検討したが陽性率が低く、消化管原発悪性リンパ腫症例におけるミスマッチ修復機構の異常の関与の可能性は低いと考えられた。
|