研究概要 |
[背景と目的]これまで我々は当科で作製した抗甲状腺モノクローナル抗体,JT-95が甲状腺癌に特異的に反応すること,さらにJT-95抗体のaffinity columnを作製,同抗体と特異的に反応する抗原物質を分離,精製し,JT-95の認識する抗原物質はシアル酸化されたファイブロネクチンであることを報告した.これより転移,浸潤性に優れ,予後不良である膵癌において,接着因子の一つであるシアル酸化ファイブロネクチン(JT-95)が発現するかについて検討を試みた.[対象と方法]対象は浸潤型膵管癌6例と同時期に切除された膵組織4例(慢性膵炎を含む)である.方法は腫瘍中心部および辺縁浸潤部のホルマリン固定パラフィン抱埋切片に,H-E,EL-V染色と,JT-95抗体を用いた免疫組織科学染色(SAB法)を行った.これらを比較しJT-95の発現の有無,部位,様式について検討した.[結果]1)JT-95は4例(66,7%)の癌細胞に発現した.一方正常膵組織での発現はなかった.2)癌部での発現は分化型(well-mod)での発現は少なく,低分化型(por)での発現が顕著であった.3)特に癌部では辺縁浸潤部での発現が明らかであった.4)癌組織切片では周囲非癌部の膵組織で,腺房細胞間の微小膵管に強い発現が得られた.5)一方正常膵組織では,腺房細胞間の微小膵管にJT-95の発現はなかった.[考察]以上の結果より1)シアル酸化ファイブロネクチンは膵癌細胞で発現する.2)とくに浸潤部で発現している.3)癌部周囲の膵組織でも発現する.以上より膵癌細胞で接着因子,シアル酸化ファイブロネクチンが発現し,同物質が周囲組織へ拡散することでさらに癌細胞が結合,浸潤しやすい環境を作り出している可能性が示唆された. 現在さらに症例数を増やし検討中である.またこの結果をふまえ、膵液、胆汁、血清、尿でのJT-95発現を検討する予定である.
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