研究目的 細径の血管吻合に際し、その平滑筋増生による吻合部狭窄は、術後の開存率低下を来す重要な因子である。冠動脈バイパス術や末梢血管再建術において、吻合部狭窄の軽減は、術後のグラフト不全を減少せしめ、その意義は大きい。しかし、今まで、吻合部狭窄を期待できる有効な手段は確立されていない。 一方、近年、日本で開発されたトラニラストの冠動脈形成術(PTCA)後の再狭窄軽減効果が報告された。トラニラストの基礎研究データから、血管内皮肥厚、血管の平滑筋増生が抑えられたと考えられる。 そこで動物実験モデルにより、トラニラストの経口全身投与による吻合部狭窄抑制効果を明らかにすることがこの実験の目的である。特に、吻合部における平滑筋の増殖の程度を術後4週で評価する。さらには、トラニラストを、ダクロン製人工血管のプレクロッティングの際、プレクロッティング用血液に混入し、その局所投与の可能性を探る。 平成10年度研究実績の概要 雑種成犬の総頸動脈を、一旦、長径5cm切離し、再び元の位置に縫合し再建した。全ての手術手技は無菌的に行った。術後4週で犠牲死せしめ、総頸動脈を取り出し、吻合部を長軸に沿って開き、免疫組織化学用の標本、走査電子顕微鏡用の標本を作成した。内膜の肥厚、血管平滑筋の肥厚増生を、形態学的に定量的に評価中である。 内系4mmの人工血管の総頸動脈への移植は、人工血管の血栓閉塞のため実験モデルとして、適切ではない。そこで、頚動脈前面に、紡錘状の人工血管をパッチ状に縫合し評価する方法を考案した。現在評価中である。
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