目的:細径の血管吻合に際し、その平滑筋増生による吻合部狭窄は、術後の開存率低下を来す重要な因子である。冠動脈バイパス術や末梢血管再建術において、吻合部狭窄の軽減は、術後のグラフト不全を減少せしめ、その意義は大きい。しかし、今まで、吻合部狭窄を期待できる有効な手段は確立されていない。一方、近年、日本で開発されたトラニラストの冠動脈形成術(PTCA)後の再狭窄軽減効果が報告された。トラニラストの基礎研究データから、血管内皮肥厚、血管の平滑筋増生が抑えられたと考えられる。そこで動物実験モデルにより、トラニラストの経口全身投与による吻合部狭窄抑制効果を明らかにすることがこの実験の目的である。 方法:雑種成犬(体重20-30kg)を用いた。テスト群(n=7)では、トラニラストを300mg/day2週間投与後、全身麻酔下に清潔野で頚動脈を露出、右側では径5mm長さ5cmの人工血管(woven Dacron)で置換、左側では、3xlcmの人工血管でパッチした。術当日は抗生物質を経静脈的に投与、第5病日まで経口投与した。術後もトラニラストを300mg/day8週間投与後犠牲死せしめ人工血管開存をチェックし、頚動脈を潅流固定した。コントロール群(n=7)では、トラニラストを投写しなかった。潅流固定後の標本に病理組織学的解析を行った。 結果:テスト群では7例全例において右頚動脈人工血管は開存していたが、コントロール群では7例中2例で右頚動脈人工血管閉塞を認めた。人工血管吻合部内膜肥厚は、テスト群でコントロール群に比し少なかった。病理組織学的には平滑筋細胞増生が抑えられていた。 結論:トラニラストの術前術後投与は細径血管吻合部狭窄予防に有用である。
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