変異単純ヘルペスウイルスを用いた遺伝子治療は現在多様な悪性腫瘍に対し研究が進められている。本研究はこの変異ウイルスを肺悪性腫瘍に対して用いた場合の腫瘍溶解作用を検討するものである。本年度は主に In vivo における変異ウイルスの抗腫瘍効果を測定した。なお本年は米国ペンシルバニア大学外科に短期出向して技術的なアドバイスを得ることができた。 1)SCID マウスを用いた皮下腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果の測定 肺癌細胞系であるA549およびH460による皮下腫瘍モデルでは、両モデルともHSV-1716の腫瘍内注入にてコントロールに対し完全消失数例を含む腫瘍の有意な縮小を認めた。変異ウイルスによる明らかな副作用は観察されなかった。また、変異ウイルスの反復注射にて単回投与に対し有意な治療効果の改善を認めた。 2)肺腫瘍動物モデルの作成およびHSV-1716経気管支投与による抗腫瘍効果の測定 NIH3T3-EJ62細胞を BALB/Cマウスに静脈注射し約3週間後に多発性肺腫瘍モデルを作成することに成功した。担癌マウスにHSV-1716を経気管支投与することにより肺腫瘍の有意な縮小と癌性胸水の予防効果を確認できた。HSV-1716の経気管支的投与による明らかな副作用は観察されなかった。 3)HSV-1716の安全性に対する検討 変異HSVウイルスの投与後の広がりおよび各臓器に対する影響を検討するため、SICDマウスにHSV-1716を腹腔内投与後、経時的に各組織を摘出し病理学的検索を実施した。HSV-TKに対するPCR、免疫染色にて腫瘍、脳、肝、脊髄、腎などにおけるウイルスの存在を検索するも、腫瘍以外はいずれもウイルス陰性と判定された。HSV-1716の腫瘍における選択的な作用が示唆され、肺癌治療に対する新たな治療として有望と考えられた。
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